さて、今回は材木の「割れ(干割れ。木の表面の割れのこと)」について、より詳しくお話しさせていただこうかと思います。
よくテレビ番組などで
「(木の)割れは欠点(欠陥)だ」
と言う話を聞きます。
果たしてそれは本当なのでしょうか? 材木屋の私(おやじ)に言わせて貰うなら、まずは「木の使われ方による」ことがひとつ、そして「しっかりと自然乾燥(天然乾燥)させた構造躯体用の材木については、表面の乾燥割れ(干割れ)は欠点(欠陥)ではない」と言うことです。このふたつについて、お話しさせて頂きます。
まずひとつめの「木の使われ方」の点をお話ししましょう。
木と言っても、木の使われ方によって、千差万別とも言える違いが有ります。例えば構造躯体用(柱や梁などに使う)の材木と、内装材(主に壁や床、天井などに張る板です)の材木は、それぞれ用途が違うので、全てを十把一絡げに「割れた=欠陥」と言う事はできません。但し、見た目を重視する内装材に割れが生じたならば、それは問題と言えましょう。
では、木は何故「割れる」のか。
「割れ」は木が空気中の水分を吸ったり吐いたりすることにより、木の細胞が膨張・収縮する過程での「動き」であります。天然乾燥の木材は伐採されてからじっくりと時間をかけて自然に水分を抜いていきますが、これは建材として使って家を建てて、人が住んでからも乾燥は続きます。この自然乾燥材の「割れ」、すなわち「干割れ」についてはのちほど詳しくお話しさせていただきます。
自然乾燥材についても、例えば柱や梁などに使う構造躯体用の木材、芯持ち(木の中心を持つ材木)と、木の板材については干割れの具合が違います。芯持ち材の場合は木材の収縮の度合いが大きいので干割れが大きくなる傾向にありますが、板材については割れるだけのボリューム(厚み)を持っていないので、割れる事はあまり起きずに反りや歪みなどが生じる事が多いです。また板材については厚みがない分乾燥も比較的容易で、最終的な加工の前にしっかりと乾燥を行えば、それ程大きな反りやくるいは生じにくいのです。それでも使っていくうちに多少の反りなど「動き」は起きますが、しっかりと製材・加工され、腕の良い職人さんによって施工されたものについては問題ないと言えます。
さて、木の割れを防ぐには幾つか方法が有ります。
1.あらかじめ見えない部分に背割り、割れ止め、反り止めなどを入れて割れを極力防ぐ(背割りについては後程詳しくお話しします)
2.木の呼吸を止める(ウレタン塗装などで木の表面をコーティングして空気と木が触れるのを防ぎます)
3.人工的に強制乾燥させる(いわゆる「人工乾燥材」「機械乾燥材」と呼ばれるものです。高温の釜の中に材木を入れて短期間で一気に水分を抜きます)
主にこれらの方法が有ります。もしくはこれら複数を組み合わせる方法も有ります。
一概にどれが優れてどれが劣っていると言う事はできません。それぞれ、メリット・デメリットが有ります。
「木を使いたい!」とお考えの方は、ぜひこれらの特徴を理解された上で、使うと宜しいかと思います。詳しくは木力館にご来場下さい。具体的な木材のサンプルをお見せしながら説明させていただきます。
次に「しっかりと自然乾燥(天然乾燥)させた構造躯体用の材木については、割れは欠点(欠陥)ではない」と言う事についてお話しします。
住宅に関するテレビ番組などで「割れは欠点(欠陥)だ」と言う表現が多くされている気がします。木のことを知らない一般の人も「ああそうなのか」とぼんやりとイメージされている方が多い気がします。
確かに、変な使い方をされた材木については、相当な負荷が掛かり割れると言ったケースも有るでしょう。そう言った荷重によって「割れた」場合は、強度的に問題があると言えます。しかしそう言う事は本当に稀なケースで、大抵は、材木の問題の前に設計・施工の段階でおかしい事が多いのです。具体的には、変に負荷を掛け過ぎる設計だったり、施工時のミスで何らかの問題が起きたり、使う材木を間違えた、などです。
一般に、自然乾燥(天然乾燥)の構造躯体用の柱材は、刻みなどの加工をし、建前を終え、家を建て終わってからもゆっくりと自然に乾燥していきますので、その過程で乾燥による干割れが生じます。昔は、よく冬の空気が乾燥している時期など、家のどこからか「ピシッ」「バチッ」と言った音が聞かれたものです。これは別に心霊現象や破損の前兆などではなく、家の構造材が乾燥により割れて、その時に出る音なのです。初めて聞くと「何事か」と驚かれるとは思いますが。木と木がなじむ、とでも言いましょうか。
自然に乾燥が進むと言う事は、木に「干割れ」と言う隙間が生じた分、他の木の細胞から水分が抜け、ぐっと締まっているとお考え下さい。その結果、より材木として、物理的に「強くなる」のです。つまり柱や梁などの構造躯体用の材木については「割れない木よりも割れている木の方が強い」と言えます。
これは大工さんの間でも経験的にも言われている事で、自然乾燥材を使い、伝統的な工法で一般的な大きさの家を建てた場合、家を建てた直後が一番弱く(まだ乾燥が完全には終わっていないので「ゆるい」、とお考え下さい)、年月を経るに従い構造躯体全体が緩やかに乾燥し”締まって”いく事で「構造体」として強くなるのです。このゆるやかな強度の上昇は、だいたい20~30年先をピークとして徐々に強くなっていくのです。
また伝統的な木造の工法は木の「粘り強さ」を活かした構造となっているので、木のもつ本来のちからを存分に引き出す事が出来ます。先人から受け継がれた知恵と技術の結晶です。
物理的に「干割れ(乾燥割れ)が生じた木」の強さを実験した方もいます。
1996年に宮崎県工業試験場工芸支部の荒武さんと言う方が「構造材の干割れと力学的性質」(『木材工業Vol.51,No.11』)と言う論文をお出しになりました。簡単に内容を説明しますと、割れが有る木と割れが無い木をそれぞれ数十と言う数を折って物理的にどちらが強いかと実験したのです。その結果
「割れていない木よりも割れている木の方が物理的に強い傾向にある」
と言う結論を導き出しています。ここでは詳細は省きますが、興味の有る方は論文をお読みになると宜しいでしょう。
割れが生じた柱は、視覚的に「見苦しい」と思われる方もいらっしゃる事でしょう。確かにそれは人それぞれ美的センス、感性の問題ですから、否定はしません。
しかし木は「生きもの」だと私(おやじ)は考えています。「植物」としての生を終え、「材木」として第2の生を受けている、と言う意味です。
そして木材は実際に、「割れ」や「反り」「狂い」など、製材した後も動きを続けます。これは昔から材木に携わる人(林業、製材業、加工業、材木屋、建築業など)の間では「当然」のこととされています。これら「木の動き」は大なり小なり有っても、木の性質と言う事で、逆にそれらをうまく使い、役立てていくのが木のプロフェッショナルと言えましょう。
柱の表面の干割れを抑える方法の伝統的かつ代表的な例として、「背割り」と言う技が有ります。
柱の一面から材木の中心近くまで人工的に隙間をつくることで、木の動きをそこで受け止め、同時に木の乾燥を促進させる効果も有り、他の面では割れが生じにくくなるのです。背割りをした面は切れ目が有るので、通常は人の目に見えない方向(壁の裏側など)に向けて使います。これは先人の知恵です。背割りを入れたからと言って柱材の強度が極端に落ちるという事は有りません。適切に使う上で実用的な強度としては十分です。
話が前後しましたが、世間に蔓延する漠然とした「イメージ」に流されず、木を使う人それぞれが正しい知識を持ち、「自分の用途や価値観に合った木」を使うこと。これが人にとっても木にとっても良いことだと、私(おやじ)は考えております。まさに適材適所と言いましょうか。そうする事で使う人も納得しますし、木が長持ちする事にも繋がると思います。
ぜひ皆さんも、木について正しい知識を持って下さい。