館長 木を語る

館長 木を語る

20.地元産の木を使う事の意義

 木力館に来館された方で、少し木に詳しい方の中には「○○産の木は良い」「○○産の木はダメだ」など、産地やブランドを挙げて語る方がいらっしゃいます。
 館長の私(材木屋のおやじ)としては、これら一種の「ブランド信仰」とも言うべき傾向を危惧しております。

 木は人と同じく、一本として同じものはありません。年輪の詰まり方、育ち方、全て微妙に違ってきます。産地や樹齢が同じ木であっても、例えば山の北側で日当たりが悪い(または南側で日当たりが良い)、土の水はけが良い(または悪い)、木の手入れが適切かどうか……等々、生育条件によって性能面も見た目も、微妙ですが少しずつ差が出てきます。それらを無理矢理十把一絡げにして「○○の木は良い(または悪い)」と決めつけるのはいかがなものか、と思うのです。鉄鋼品や集成材など、規格や性能が一律に決められている工業製品や新建材等ならまだしも、有名なブランド木だけをただ名前だけでもてはやすのは多少強引な考えではないかと思うのです。

 館長の私(材木屋のおやじ)は、木の「ブランド」にこだわるよりも、木の樹齢にこだわる事が大切、と以前にお話ししました(当該記事はこちら等をご覧ください)。
 今回更に踏み込んで言うなら、その土地で育った木を同じ(または似た)気候風土の土地で使う事、つまり地元産の木にこだわる事を推奨したいのです。いわゆる、木材の「地産地消」です。
 例えば埼玉県で木造の家を建てるなら埼玉県産の木を使う、と言った具合です。埼玉県産材が無理でも、関東圏内や近隣の木であれば概ね間違いはなく、それすら無理な場合でも最低限国産材を使って欲しいと思います。

埼玉県内の山林。

 人も木も同じく、その土地その土地の気候風土によって育まれます。気候風土が違えば、性質や気質も微妙に違ってくるのは人も木も同じと、館長の私(材木屋のおやじ)は思います。
 例えば、昔からの大工さんの言い伝えのひとつに「家を建てるなら、裏山で採れた木を使うと家が長持ちする」と言うものがあります。同じ気候風土で育った木を同じ気候環境で使えば、余計な負担が掛からず材料としても長持ちすると言う理屈です。逆に言えば、気候風土が合わない木を使うと材木としても長持ちしない、と言う長年の経験則でもあります。

 しかし、食べ物の分野での「地産地消」はよく聞きますが、木材の「地産地消」は殆ど聞かれません。大手のハウスメーカーの多くは利潤追求の為、外国産の木を大量に買い付け、工場で部材を大量生産し、大量消費する世の中です。その仕組みの中に「地元産の木を使う」と言う選択肢はほぼ無いでしょう。

 木力館で木材の地産地消の話をすると、「今までそんな事は考えもしなかった」との感想はもちろん、「そもそも埼玉県のどこに木が有るのか」と逆に聞かれる事もしばしばあります。

 埼玉県の中央部~東部にお住いの方は山林など見た事も無いと思いますし、さいたま市内には用材になるような木は殆どありません。しかし、埼玉県の県土面積の約1/3は森林で、主に西側の地域(秩父や飯能、日高、ときがわ等)には広大な森林が広がっており、その面積は約12万2千ヘクタール以上におよびます。もちろん、森林面積の割合等では全国平均では最下位に近いランクではありますが、それでも埼玉県には良質な杉、ヒノキ、広葉樹といった木がたくさん植えられ育てられ、使える状態にあります。それらの木を使わずに放置するのはとてももったいない事だと思いませんか?

 日本では、木を伐採して木材として使ったら、伐採したところにまた新しい木の苗を植えて育てると言う習慣があります。つまり、埼玉で木を使うなら、またそこに木の苗を植えて育てる事になるので、埼玉の森林の若返り化や森林保全の強化にもつながります。そして木材産地と消費する場所が近ければ運搬のコストも抑えられますし、何より先程お話しした通り、気候風土に合っているので材木として使っても長持ちする、と言う訳です。
 地域の木材を使うと言う事は、いい事尽くしなのです。

 もちろん、木造住宅の構造(骨組み)に使うだけでなく、内装の模様替えに木を使う、公共施設の木質化(内装や家具等に木を使う)の為に地域の木を使う事も良いですし、また普段使いの道具等に木製のものを使うなど、木を使う機会や使い方にはさまざまな方法・やり方があります。

 参考までに、最近の木力館の取り組みをご紹介しましょう。埼玉県産のヒノキ、杉を使って積み木を作り、さいたま市(61か所)、越谷市(18か所)、春日部市(10か所)、各市の公立の保育園・保育所に各市の市役所(保育課)を通じて積み木セットをひと箱ずつプレゼントした実績があります。こちらは木力館ホームページ内でもご紹介しております(詳細はこちらをご参照ください)。
 積み木はもちろん収納箱も全て館長の私(材木屋のおやじ)の手作りで、小さいお子さんのうちから地元産の木に親しんでもらい、将来大人になったとき、地元産の木に興味を持って欲しい、また保護者や職員の方にも少しでも地元産の木の事を知って欲しいと言う思いがあります。逆に言えば、大多数の大人の方はもう全く木に興味・関心がない人が多いので、小さいお子さんや保護者の方等にもっとPR出来たら、との思いもあります。

各所に寄贈した、埼玉県産の桧(ヒノキ)、杉で作った積み木

 なお、ここでは主に埼玉の木の事を例にとってお話ししておりますが、他の都道府県の方は、各地域で良い木があれば、その地元産の木を使うべき、とも木力館ではお話ししております。
 木力館には埼玉県外からもさまざまの地域の方が見学・視察・研修等で来館されますが、例えば東京には多摩材、千葉には山武杉、栃木、茨城、福島の県境辺りには八溝材と、各地域にはそれぞれ優良な各種木材を産出する山林が、そして代表する木があります。
 ですから変に「どこそこのブランド材」に固執するよりは、地元産の優良な木を使った方がさまざまな面でプラスになる、とお話ししております。さきにお話しした通り、その使い方も多種多様で、それによる良い影響もたくさんあるのです。

 とにかく、もっと地元の木に注目してほしい、そして地元の木を使って欲しい。それが館長の私(材木屋のおやじ)の願いです。