館長 木を語る

館長 木を語る

対談 岡野健×大槻忠男(第3回)

対談の3回目をお届けする。
東京大学名誉教授「NPO木材・合板博物館」館長 岡野健氏 と 木の博物館「木力館」館長 大槻忠男氏の二人の対談は 「国産材のイメージと実情、今後の展望」と言うテーマで進められた。
(司会:大槻文兵)

第三回は、構造躯体から、家の工法などに話が及ぶ。
(前回の第二回目はこちらからどうぞ)
大槻館長

 

大槻「話は変わりますが、昔は今みたいな建築基準法なんてものは無かっただろうから、人の技術と失敗の連続で家を作ってきたのだろうと思います。しかし今の建築基準法は、計算上の住宅作りになったんですね。例えば、1+2は3のものを作って、3のものを作らないと許可にならないって事で。これが3のものをつくって4だとか5になると今度は無駄だとかコストアップになるからという事でみんな3のものをつくって数字を合わす様にしている。ですから昔の工法は全部ご破算にして、新しい建築基準法・工法になってしまった。例えば伝統工法の通し貫工法だとかいろんなものは、現在ほとんど無くなって、金物と筋交いになっているんですね。その辺はどうなのかと。良いものは残した方がよかったと思うのですが」

岡野「本当の伝統工法を見直そうとしてる人達は建築家の中にたくさん居ますよ。そういうものの良い部分が取り入れられていって、段々、良くなっていくと思いますね」

大槻「今までは例えば鉄筋だとか鉄骨だとか金物などが主体になっていますが、その中で、私は伝統工法ってのは全部ではないにしろ、残さなくてはならないと思う訳です。残す事によって、技術と、職人そのものも残る事になると。しかし今の建築基準法では、職人は育ちにくい。例えば、ものづくり大学など、色々な建築・工法を教える場は有る。でもそういう学ぶ場を出ても、働く場、自分の技術を発揮する場が無い。現在の木造建築はほとんど全部工場のプレカット加工ですから。技術が有るのに仕事が無い世の中になっているのが残念だなと思います。やはり幾らかでも残しておけば、今現在は需要はあると思いますよ。私の所に相談に来る人がよくこう言います『今はもう技術を持ってる大工さんは居ないんでしょう』と。私は『今は大工さんはまだまだたくさん居りますよ。ただ技術を使ってくれる人がいないのです』と答えます。特別な技術を必要としないプレカット加工が現在の主流で、『坪単価幾ら』という数字の競争だけの世の中になっている。プレカットは下手な大工に頼んでも上手な大工に頼んでも結果は全部同じです、と言う様な話をすると、皆びっくりしますね。だから私は、これからも技術を活かしていくには、大工さんの手刻み、匠の技をもった住宅が本当の注文建築だと私は思う訳です。数字だけでなく内容もこだわろうと、考え方も変えて行こうと、そしてこれらの情報を得て発信したほうがいいだろうという事で。例えば私は通し貫工法を大学で実験し、木材技術センターや建材センターに問い掛けをしているんですが、現在の建築基準法では駄目なんですね。具体的には、通し貫工法は壁倍率が1倍と決められているから駄目だと。建築基準法でその理由の部分を見ると巾が90mm以上、厚みが13mm以上の貫きになっているんですね。私が試験を行った場合は、120mm×30mmの桧を通し貫にして、5対入れてます。しかし、幾ら貫の断面を大きくてしても駄目だと言う答えが返って来る。これは理屈で通るんですか? 13mmと90mm、それから120mmと30mmの力の違いは必ず出ますよね」

岡野「出ますよ。実際に耐力実験してみると、数値はもっとある訳でしょう?」

大槻「ええ。大きな差がありますね。大学の試験でもはっきりした数値が出ています。しかし、貫き工法と言うのはこういう形でなっているから、その貫き工法の壁倍率も決まっているから、幾ら大きい材料を使っても、小さい方の数値しか認めないと法律で決められてしまっている。これは構造計算が問題なんですかね? その構造計算上、良い数値が出ても駄目なんですか?」

岡野「それは、そういう具体的な数値が、今の建築基準法で、大臣の特認と言う形でしか認められてないからだと思います。それは日本が法律でそういう仕組みにしてしまっているから仕方が無い部分も有る。正当な評価をしてもらおうとしたら、特別な認可制度で、こういう工法だったらこういう評価をしてもいいですって実験データを付けて……実験にはお金がすごくかかるんですけど、そういうことをしない限りは、こっちの一般ルールで行きましょうって事に決めちゃっているんですね。今後は、そういう事を法律で認めていこうと働きかけをした方が良いと思いますね。それを認めていくには、第三者あるいは研究機関等が、たくさんの裏付けのデータを出して、その法律の一言の決め事を変えようとしていかないと、いけないんでしょうね。具体的には大槻館長の取組みなどがそうですが」

大槻「もうひとつ言うと、建築基準法で決められた一般的な筋交い、金物を使った工法に則ったテストモデルと、通し貫工法を用いたモデルを用意して、同じ大学、同じ条件下で実験をしたんですよ。すると、通し貫工法の方が丈夫だったのです。具体的な数字と結果が出ている訳ですよ。それでも認められないんですね」

岡野「そういうものが、やがて法律や人の意識を変えていくんですよ。黙ってたって変わらないです」

大槻「今後このままだと、日本の文化財的なもの、木造の伝統的な工法などがなくなる危険がある。そうすると技術を継承する職人も居なくなる。だから何かアクションを起こす方法を模索しているところです。私はちっぽけですけども、その声を出して、木力館を通じて色々やっているんですけれども、先生の力をこれから借りていこうと思っておりまして(笑)」

岡野「(笑) そうですか」

大槻「ええ。最終的には、通じるものがあるから、私もやはりいくらか安心しまして(笑)」

岡野「うん、私も非常に良くわかる。それはね、ちゃんとやっている人はよくわかる(笑)」

 

第4回はこちらからどうぞ。